当科では持続する中等度異形成(CIN2)の患者様に対して外来手術で子宮頸部レーザー蒸散術を行っております。高度異形成(CIN3)に対しても手術が可能ですが、上皮内がん(CIN3)の場合は子宮頸部円錐切除術ないしは子宮全摘術を行うことも多くなります。レーザー蒸散術を行う場合は手術による摘出物がなく、病理検査による確認ができないため、病気の進行具合の評価は外来における術前の組織検査のみになります。術前の組織検査で高度異形成や上皮内がんと診断されたものの中に、実際はより進んだ状態の微小浸潤がんや浸潤がんが含まれている可能性があるため、高度異形成・上皮内がん(CIN3)の場合は適応を慎重に考えて行っています。
レーザーは切開や凝固あるいは組織の蒸散といった目的で広く手術に用いられており、侵襲が非常に少なくまた病変に非接触という点でも非常に有用です。レーザー蒸散術で用いるレーザー光は、水分に吸収されて熱エネルギーに変換されます。照射された組織中の水分は瞬時に蒸発し、速やかに発生した熱エネルギーにより組織が凝固あるいは蒸散されていきます。レーザーはパルス状に照射されますが、1発のパルスで蒸散される深さ(組織到達深度)は0.4㎜程度で、またレーザーから5㎜離れると組織に影響を与えることはないため、より安全な手術ができるものと考えます。 子宮頸部異形成の病変は腟内で観察が容易な部分にあるので、レーザー蒸散術は肉眼的に病変を直接照射することで行います。
低侵襲である子宮レーザー蒸散術は痛み止めの坐薬や局所麻酔剤のみの麻酔で手術が可能なため、入院せずに外来手術で実施することができます。ただし局所麻酔薬に対するアレルギーが疑われる方や、意識がある状態で手術を受けることが不安な方などでは全身麻酔などのしっかりとした麻酔を実施しますので入院して手術を受けることになります。
[手術日] 手術では外来での内診と同様の体勢(載石位)をとっていただき、消毒、子宮頸部の病変確認、局所麻酔をした後に、病変にレーザーを照射することで蒸散を行います。手術準備や術後の状態確認などを含めて1時間程度かかりますが、実際に手術をしている時間は短時間です。 術後は約30分の安静を行い、再度診察し出血が無いことを確認の後に帰宅できます。通常は感染予防の抗生剤や痛み止めなどの処方があります。帰宅後に体調に問題なければ食事やシャワーの使用に制限はなく、また就労は翌日から可とします。
[術後] 術後1-2週間後の診察まではシャワーのみとして入浴時の浴槽使用は控えます。術後1ヶ月程度の間は水様性帯下(水っぽいおりもの)があることが多いです。術後2ヶ月までは性交渉を避けますが、それ以降は妊娠の許可ができます。婦人科手術一般的に、術後は出血、発熱、下腹痛に注意することになります。術後数日の間は軽度の症状が起こりえますので様子を見て良いと思いますが、出血が多い場合や高熱、腹痛が強い場合などは特に外来受診を考慮して下さい。
[術後通院] 手術翌日に来院していただき子宮頸部の創部確認を行います。1-2週間後に再度創部確認を行い入浴時の浴槽使用の許可となります。以降は適宜受診していただき細胞診などを行い経過観察していきますが、術後6ヶ月後頃にHPV(ヒトパピローマウィルス)感染の有無を確認する検査を行います。
レーザー蒸散術は合併症の少ない手術です。大きなリスクはないと考えますが、分泌物で湿潤した粘膜への手術であるため術後出血は起こりえます。しかし大量になることはほとんどありません。また子宮の出入り口に対する手術であるため出入り口が狭くなる頸管狭窄なども合併症リスクに挙がりますが頻度は非常に少ないと考えています。レーザーの誤照射がある場合は照射された部分の損傷が起こりえます。ただし前述の通りレーザーは5㎜以内に近づかないと影響がなく、また到達する深さは0.4㎜程度です。当然なことですが取扱いは適正かつ慎重に行い、さらに皮膚の露出が無い状態で手術を行います。
子宮頸部円錐切除術も子宮頸部レーザー蒸散術と同様に子宮頸部異形成の治療として行われています。子宮を温存し、病変のみに対する治療である点は一致していますが、円錐切除術が病変を切り取る手術であるのに対し、蒸散術ではレーザーにより病変を蒸散消失させる手術です。円錐切除術の大きな長所は病変を摘出する手術であることであり摘出検体の病理検査を行うことができるため、正確な診断をすることが可能です。その反面術中や術後の出血(輸血が必要な程の出血は想定されません)や頸管狭窄などの合併症リスクはレーザー蒸散術より高くなります(可能性が高いわけではありません)。また子宮頸部が一部摘出されるため妊娠に対する影響があり、早産や低出生体重児の頻度がやや上昇するとされています。子宮頸部レーザー蒸散術では早産リスク上昇がほとんどないため今後に妊娠を考慮している若年者ではレーザー蒸散術が奨められます。ただしもちろん両者の手術と患者様の状態で適性を判断し選択することが最も大事です。